ジャカルタのふろしき。

新卒でインドネシアはジャカルタに流れ着いて2年。日々生活で感じたこと、海外から日本を見て 思ったことなどを綴るブログ。最近JKT48にハマったため、関連の話題多めでお送りしてます。

世界一日本車が愛される国 - 東南アジアにおける日本製造業のゆくえ

 
事務所近くの歩道橋から、夜8時頃のジャカルタ。
バス専用道路にまで乗用車が入り込んで、ひどい渋滞。

 アメリカのミステリー小説家、ジェフリー•ディーバーの小説「ボーン•コレクター」にこんな場面がある。若い刑事が主人公の探偵役に事件を説明する中で、「使われた弾丸の径は三二」と説明し、「ホンダ•アコード並みにありふれた弾ですね」付け加える。小説の舞台はアメリカだが、この事件の舞台がもし現代のインドネシアであれば、この若い刑事は「トヨタ•アバンザ並みにありふれた弾ですね」と付け加えるだろう。そのくらい今のジャカルタは日本車、主にトヨタで溢れ返っている。そこらじゅうで見かける2大タクシー会社のブルーバード社とエクスプレス社もトヨタ車を採用している。

 先日、インドネシア国際モーターショーが、9月20日から30日まで開催された。(その様子を以前エントリにまとめたものが こちら
 世界の名だたる35ブランドが出展し、展示面積も約7万平方メートルと過去最大規模だ。アウディBMW、シボレー、フォード、ジープ、メルセデス、フォルクスワーゲンなどの西欧ブランドから、ジーリーやフォトン等の中国ブランド。勢いのあるインドのタタモーターに、トヨタ、ホンダ、三菱、マツダ、いすず、スバル、スズキ、日産‥。
 名だたる有名ブランドの車が処狭しと並んだ7万平方メートルを見て、改めて事態の異常さを感じた。車にそれほど強い興味を持たない僕ですら知っているブランドが並ぶ中、インドネシア四輪マーケットの中で日本車のシェアが9割を超えているのだ。

 2011年インドネシアの4輪販売台数は89万4000台で、2輪は804万台。運輸省によると2014年には車の道路占有面積が道路の総面積を超え、交通が完全に麻痺すると言われている(もう超えているというデータもあるシンクタンクから上がっているし、実感としても完全に麻痺している)。
 そしてその販売台数の9割以上が日本車なのだから、いかに多くの日本の車が走っているかが分かる。もし仮にトヨタの社長が「いついつまでにトヨタの新車の道路占有面積で道路の総面積を超す」と宣言しても、もはや単なる冗談には聞こえないと言ったら、、、それは極端かもしれない。インドネシアはある側面では日本よりも親日、つまり日本よりも日本車が走っていると言っても言い過ぎではないだろう。特にトヨタ(2012年7月四輪業界シェア37・5%)とホンダ(2012年7月二輪業界シェア57・0%)の影響力は圧倒的だ。

 冒頭の写真は事務所近くの歩道橋から、夜8時頃撮影したもの。写真右上に見えるバスの専用道にまで乗用車が進入し、身動きが取れない状況。毎日がこんな状況というわけではないが、めったにないわけではない。渋滞のひどさを少しでも理解して頂けるだろうか。

 このような背景もあり、昨年と今年はインドネシアに進出する日系企業が爆発的に増えた。その中心となったのが四輪と二輪のメーカーについてでてきた部品製造メーカーだ。インドネシアでの日本メーカー産二輪•四輪の生産台数増⇒大手メーカーの工場増設•新設が呼び水となり、下請けメーカーが雨後のタケノコのように増え、それを補助する商社やサービス業が増えたという形だ。

 日本人としては、「海外で勝負する会社が増えた」と嬉しい気持ちもある。ところが、楽観的に考えられない側面もある。昨年までに進出している企業は、その何年も前から進出を検討して、程度の差こそあれ綿密な準備のもとにインドネシアに来ている。その一方で、インドネシアの好景気が話題に上がるようになってから「日本にいても仕事が無いため、インドネシアでの見込み客も無いのに慌てて出て来た」という会社も少なくない。そして、それらの会社に対して現在は大きく分けて二つの見方がある。

 ひとつは、厳しいけれど、その多くは成功すること無く日本に戻る可能性があるという見方。
 その理由として、現地の部品メーカーの方が圧倒的にコストが低い点が挙げられる。高度な技術が必要とされる四輪の電装部品などはまだしも、それ以外の簡単な部品であれば現地企業でも作れる上に、彼らのほうが圧倒的にコストが低い。「日本人同士で話が通じるし、安心できる」という理由だけで仕事がとれる時代は間もなく終わろうとしている。というかもう既に終わっているのかもしれない。

 ふたつめは、やはり「日本人のものづくり精神は馬鹿にできない」という見方。日本人と日系企業は、東南アジア各国企業と比べるとクオリティコントロールについての意識が高い、という神話は根強い。搭乗者の命を預かる大事な製品である二輪、四輪には、一定以上のクオリティが担保されなくてはならない領域がある。とある工場用ロボットメーカーの方によると、四輪の全ての部品のうち8割、二輪では7割くらいは日系企業に頼むべき領域であると言う。
 例えば、日系企業と韓国企業から焼き入れの仕事を受けている人の話によると「韓国企業の場合、日本メーカーだったらロットごと作り直しレベルの荒さが放置される」という。全てがこの通りなのか定かではないけれど、似たような話はよく耳にする。
 ローカル企業の技術力も上がって来ているとはいえ、一定以上の水準を保たせる場合、結局日系企業に発注する方が安くつく場合が多い、と言う話を聞いた。

 この二つの見方は一見相反するようだが、僕はどちらも正しいと考えている。

 まず、大前提として、「自社の技術がその分野においてどのようなレベル、コストか」「他の地域と比べてどうか」ということを意識する必要がある。それを意識せずに「とりあえず場所を変える」という行動をするのは問題の先送りにすぎず、リスクの高い行為である。しっかりとマーメティングをした上で海外進出であれば、仮にコストで現地企業に負けたとしても、それ以外の付加価値を提供する事で対応することができる。何も考えずに進出してコストで負ければ、得るもの無く撤退することになるのは自然な帰結。蛇足ではあるが、これは企業だけでなく個人レベルでも全く同じ話ができる。これについては以前のエントリを参照して頂きたい。↓
『最近の若者はだらしない』という説教に見るグローバル観の欠如

 ではどのような付加価値を提供できるのか。高水準の製造活動を維持するうえでは、技術があるという事の他に、ものづくりに対する姿勢やこだわり、労働意識が必要不可欠である。東南アジア各国の民族性に顕著な、勤勉とは言いがたい国民性を考えると(もちろん全員とは言えないがやはり多いと言わざるを得ない)、時間になったから帰宅する、休日だから連絡がつかない、ということであればクオリティコントロールの仕事は成り立たない。その意味では、管理責任をしっかり負うことができる日本人はどの生産拠点でも必要となる。
 過労死が横行するほどのコミットを求めるのはやり過ぎだとしても、社員がある一定以上のコミットをしない限り、繊細な品質管理は困難である。その意味では「日本のものづくり精神」はまだまだ捨てたものではなく、他国の生産技術が上がったとしても、日本の製造業はまだまだ見るべきところがある。

 最後に「日本の製造業が捨てたもんではない」という話と「これまでの雇用をそのまま維持できるか」と言う話は全く別。多くの人が安心できるわけではないことを付け加えておく。

 以上、特に新しい指摘があるわけでもないが、ジャカルタの2輪と4輪事情、そこから見える日系企業製造業の行く末をまとめてみた。


※文中データのソースはすべて「じゃかるた新聞」
http://www.jakartashimbun.com/